小判一両・下(三遊亭圓生6)

安七は侍に一両を渡し、今戸橋へ向かって寺の門のところへかかったところで呼び止められる。振り返ると、深編笠の立派な侍。話しがあるから一緒に来いという。仕方なく付いていくと、河岸の金波楼という懐石料理屋に入る。座敷に上がる、女中が料理を運んでくる、勧められるままに酒を飲むと、実にいい酒だ。店の者を遠慮させ、酒を注いでくれる。用を尋ねると、近頃、こんな嬉しい思いをしたことをないと礼を言う。安七は刀の試し斬りをするつもりではないかと邪推し、そのことを侍に告げる。侍は大笑いをして、試し斬りではないという。侍は水戸家に使える浅尾申三郎というもので、下屋敷へいった帰りに、先ほどの一部始終を見たという。侍同士のつらさ、世に捨てられた人の前には、なまじ出ぬのがかえって情けと差し控えたところ、安七の義心に感心したという。そして、ここへ招いたという。安心した安七は酒をいただく。さらに金を納めてくれというが断り酒だけをいただくことにする。互いに酌をして飲む。酔いが回ってきた安七は申三郎に、先ほどのことを褒める気持ちがあるなら、どうして自分で慰めの言葉の一つもかけてやらなかったのかと責める。申三郎は世の中はうまくいかない物で、世に捨てられた人の前には、なまじ出ぬのがかえって情けだと答える。安七は理屈を言って申三郎を責める。申三郎も心を動かされて、侍に会いに行くことにする。安七は案内していく。来てみるとひどい荒れ屋。手習いと書いた家の前の空き地で小市が無心に凧を揚げている。安七が聞くと家にいるという。詠んでも返事がないので中へはいると、屏風の裏で切腹をしている。脇には小判一両と手紙が置いてある。麻布古川橋の縁者のところへ小市を連れて行ってくれ、我が子一人養いかねる情けなさ、行きずりの者にまで情けをかけられる身の不甲斐なさ、このようになるまでおめおめ生きのびた身の愚かさ、今日、おのれの姿をおのれで見たと書いてあるとのこと。小市が入ってきて父にすがって泣いている。安七は理解できない。申三郎が、このご人も自負も持っていたが、今日見たわが子の心、見ず知らずの安七の情けに始めて我が身を振り返り、おのれの姿をおのれで見た、生きて甲斐なき身と悟ったのであろうと説明してやる。安七も自分の考えの浅さを悟り「生まれついてのお節介、肌身離さず持っていたおやじの形見が仇になった」と嘆き、小市を呼んで「お前の父親の敵は俺だ」といって泣き崩れる。申三郎、「そちの情けが仇になったのは残念ではあるが、お前のしたことは決して間違ってはおらんのだ。その心をいつまでも忘れるなよ」−−浅尾申三郎の情けで、小堀孫市をねんごろに葬ってやり、また、小市は古川橋の縁者から浅尾の養子としてもらい受け、後、立派な侍に育て上げ、安七も浅尾家に長く出入りをいたしたという、小判一両でございます。
マクラはなし。しっとりと暗めで間をたっぷりととった語り口が、人の世の哀しさと、人の温かさを見事に描いている。

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